ネロとパトラッシュの物語
                       

                                                             

             
絵の好きな心やさしい少年ネロとパトラッシュという犬の物語は今でも私の宝物です。
「一生懸命働く事」「絵を書く事の楽しさ」はこの物語が教えてくれました。


「フランダースの犬」の舞台は19世紀後半のフランダース地方、ベルギー北部のアントワープ、ネロが住んでいたホーボーケン村です。
現在はホーボーケン区になっています。
イギリスの女流作家ウィーダがアントワープに住んだ経験をもとにして、英語で書き、1872年に英国で出版された小説です。
               
親のないネロは、おじいさんと老犬パトラッシュと村に暮らしていました。
2人には耕す畑も、所有する家もなく貧しい暮らしでした。
仕事といえば、農家をまわって牛乳を集め、アントワープの牛乳市場へ売りに行く事。
売った代金を農家の人達に渡し、少し分けてもらうのです。
パトラッシュが牛乳缶を積んだ荷車をひき、わきをネロは歩いて、毎日、雨の日も雪の日も、片道5キロの道のりを通いました。

パトラッシュは、もともと金物屋が飼ってました。
飲まず食わずで重たい金物を運ばされ、ムチでぶたれ、弱って道端に捨てられていたパトラッシュをおじいさんが見つけ、ネロと手厚く看病しました。
そのおかげでパトラッシュは元気になります。
生まれて初めて人に優しくされ、愛を知ったパトラッシュはネロを心から慕い、忠実に仕えるようになります。
そして、命を助けてもらい、かわいがってもらった恩を生涯忘れませんでした。

ネロは絵が好きで、ルーベンス(1577〜1640)のような偉大な画家になるという夢がありました。 
アントワープの大聖堂には、ルーベンスが描いた祭壇画「聖母マリア被昇天」があり、ネロはいつもそれを長い時間かけて見上げていました。 
教会には他にもルーベンスの絵があり、ネロは見たくてたまりませんでしたが、布がかけてあり銀貨を払った人しか見ることが出来ませんでした。
貧しいネロには手の届かない金額でした。
作者は、パトラッシュがいつも、ネロが大聖堂の中にルーベンスの絵がチラリとでも見られたらと思って滑り込むたびに、どんなに辛抱強く待っていたかを書いています。
            
やがて、ネロに不幸が訪れます。ある日、アロアを描いた絵を、貧乏なネロと会うのを嫌っていたアロアの父は、金貨を与え、絵を買い取り引き離そうとします。
ネロは友達であるアロアの絵からお金をもらう考えは毛頭なく、貧しい生活や、大好きなルーベンスの絵をみるための資金になったかもしれない1枚のコインを断ります。

さらに風車小屋が火事になり、放火の疑いがネロにかけられ、人々は牛乳運びを頼まなくなり、仕事がなくなったネロは無一文になってしまいます。
そこへおじいさんも亡くなってしまいます。家賃が払えなくなったネロは
住んでいた小屋を追い出されます。

ただ1つの望みは、アントワープ市の絵画コンクールでした。
入賞すれば賞金がもらえ、絵の勉強が出来る、、、発表はクリスマスイブの12月24日。
市庁舎へ結果を見に行くと落選でした。
夢は消え、身寄りはなく、お金もない独りぼっちのネロを助けてくれる大人はいません。
家のないネロは、クリスマスイブの晩、吹雪の中、空腹を抱えて大聖堂へ歩いていきます。
あの絵をみることさえ出来たらと願いながら、、、
パトラッシュはネロを寒さから守ろうと懸命でした。

人のいない真夜中の教会、ネロはルーベンスの絵にかかっていた布をはずします。
しかし暗い夜で、まるで見えない、、、 その時、神の恵みがあり、奇跡が起きます。
雪はやみ、月の光が差し込み、ルーベンスの傑作「キリスト昇架」と「キリスト降架」を明るく照らします。

夜が明けたクリスマスの朝、大聖堂には、犬と少年が抱き合ったまま凍え死んでいました。


いくつもの悲しみをのり越え、支えあい助けあい生きてきたネロとパトラッシュは、最後まで離れる事はありませんでした。
最後2人は寄り添い死を選びますが、幸せだったと思います。
あれほど見たかったルーベンスの2枚の絵を見ることができたからです。



                     



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